先日、息子をベビーチェアから抱っこして、手洗いに連れていこうとしたその瞬間。
彼の体がスッとイスから離れかけた――と思ったら、妙な重みを感じた。
見ると、足の指先がイスの縁をがっちりとホールドしている。
吸盤でもついているのかと思うほどの粘着力。
まるで空中で寝転んでいるような妙な体勢のまま、彼は人生最大の抵抗を試みていた。
どうやら、先ほど冷蔵庫から取り出したりんごが気になって仕方ないらしい。
日に日に、握力ならぬ「足握力」が増している。
私が引けば、今度はイスの方がガタガタと付いてくる始末だ。
ひっぱる私。
耐える息子。
ひっぱられる椅子。
それを見て笑う妻。
なんとも滑稽な光景だが、これが我が家の平和の縮図なのだと、自分に言い聞かせる。
試しに、息子が去ったあとで私も真似して足で掴んでみた。
だが、指は空を切るばかりだ。
必死に指を丸めているうちに、今度は自分の足がつりそうになってしまった。
子どもの秘めた力には、毎日驚かされる。
一生懸命に生きている姿というのは、どうしてこうも面白いのだろう。
これほど力強い生存本能が、成長に伴う「理性」とトレードオフなのだとしたら。
それは少し、もったいない気もするのである。


