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午前三時

夜中、静まり返った部屋に、突然その声が響く。「ぴえーん」まだ慌てる時間じゃない。布団から腕だけ伸ばし、半分眠ったまま背中をポンポンする。これが、わが家の一次対応だ。たいていは、これで終わる。だが今夜は違った。泣き声はじわじわと音程を上げ、時...
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喋る本と、父の白旗

息子が夢中で遊んでいる本は、私の知っている「本」とは、似て非なるものだった。おばあちゃんが買ってくれた言葉図鑑には、魔法の杖のようなタッチペンが付属されている。イヌを突けば「ワンワン」と吠え、ピアノを叩けば「ポロポロローン」と旋律を奏でる。...
育児記録

小さな指揮官と、魔法の「ピッピ」

一歳の息子は、それを「ピッピ」と呼ぶ。テレビのリモコンのことだ。彼にとってピッピは、退屈な日常を一瞬で塗り替える道具らしい。手に取ったが最後、迷いなく赤い「YouTube」のボタンを狙い撃つ。ただし、そこから先はまだ一人では完結できない。画...
育児記録

バリカン一本の、父と子の時間

わが家では、息子の散髪は私の役目だ。道具はバリカン一本。場所はお風呂場。新聞紙を敷き、排水口にはネットをかける。分かってはいるが、子どもの髪を自宅で切るのは、なかなか骨が折れる作業だ。「じっとしてて」と言った直後に、体をくねらせる。首元に落...
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手遊びに馴染めない父の話

「今度、地域の児童館に行かない?」妻にそう言われた瞬間、頭に浮かんだのは、子どもの頃に通った公民館だった。薄暗く、床は冷たく、どこか埃っぽい場所。児童館とは、そういうものだと思い込んでいた。ところが、現実は容赦なく私の記憶を更新してくる。辿...
育児記録

家庭はダイエットに向いていない

健康診断の結果を突きつけられ、ついにダイエットとやらを決意した。思えば昔は、テレビで「バナナがいい」と言えば翌朝にはスーパーの棚が空になり、「〇〇がいい」と聞けば、皆が一斉に飛びついた。そんな、どこか長閑なブームに、世間が振り回されていた印...
育児記録

親の最初の仕事

名前をどう決めるか。世間には流行りがあるようで、今の時代を象徴するような華やかな漢字が並んでいる。試しにネットのランキングとやらを覗いてみたが、なるほど、これがいわゆる「令和」か、と思う。きっと、学校で目立つ子たちは、こんな名前をしているの...
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忘れられた砂場セット

公園の砂場には、不思議な現象がある。いつ行っても、必ずといっていいほど「忘れ物」があるのだ。バケツ、スコップ、正体不明の型抜き……。あれは一体、誰が置いていったものなのか。そして、持ち主のいないそれを、そっと使うのはやはりマナー違反なのだろ...
育児記録

赤いピンと緑のピン

これほど公園へ通うようになるとは、独身の頃には想像もしていなかった。今日も息子を連れ、近所の公園を目指す。ふと、スマートフォンで地図を開く。画面には、かつて「お気に入り」として登録した赤いピンが点在している。地元で人気のラーメン屋。路地裏の...
育児記録

おじいちゃんの家か、おばあちゃんの家か

「おじいちゃんの家」か、それとも「おばあちゃんの家」か。実家へ向かう車中、そんな定義のゆらぎに、つい考え込んでしまう。父という家長への敬意か、それとも家を守ってきた母への親しみか。そんな理屈を頭の中で並べていると、助手席の妻が、スマホから目...