健康診断の結果を突きつけられ、
ついにダイエットとやらを決意した。
思えば昔は、
テレビで「バナナがいい」と言えば翌朝にはスーパーの棚が空になり、
「〇〇がいい」と聞けば、皆が一斉に飛びついた。
そんな、どこか長閑なブームに、
世間が振り回されていた印象がある。
だが今は、
筋骨隆々の若者がネットで
鶏むね肉やブロッコリーを頬張りながら、
「痩せるとは、こういうことだ」
とでも言わんばかりに理屈を並べる時代らしい。
かつての「なんとなく」な健康法は影を潜め、
ごまかしが利かなくなっている。
いざ始めてみると、
家庭という場所は、
自分を律するにはあまりに誘惑が多い。
おやつの時間。
横で妻が、うまそうにドーナツを頬張っている。
その満足げな顔を見ていると、
つい
「一口くれ」
と、情けない言葉が喉元まで出かかる。
つまみ上げた腹の肉を、
忌々しく見つめる。
かつて、
ダイエットに挫折する母を見て、
どこか他人事のように鼻で笑っていた。
時を経て、
今度は私がその立場になっただけの話だ。
その日の夕方、
ドーナツは、半分だけ減っていた。
私の腹の肉は、
何事もなかったように、
そこにあった。


