妻のメガネと、息子

妻のメガネが、狙われている。

一日の終わり、

妻がコンタクトを外した瞬間から、

戦いは始まる。

相手は息子だ。

目的は明確。

メガネ。

小さな手が、

ためらいなく伸びてくる。

妻はそれを避け、

角度を変え、

体をひねって応戦する。

私は少し離れたところで、

その攻防を見守っている。

瞬間的なパワーでは、

さすがに妻が勝る。

取り返す。

かわす。

距離を取る。

一見、優勢だ。

けれど、

息子はあきらめない。

何度も来る。

同じ動きを、

何度でも繰り返す。

圧倒的な粘り強さで、

じわじわと妻を追い込んでいく。

その瞬間は、

わりと静かに訪れた。

パキ。

音だけが、

はっきりと残った。

勝負あり、だ。

妻は無言でメガネを見る。

息子は、

何が起きたかわからない顔をしている。

私は、

次にかかる出費を

頭の中で計算している。

育児は、

体力勝負だと思っていた。

最近は、

消耗品との戦いでもある気がしている。