夜中、静まり返った部屋に、
突然その声が響く。
「ぴえーん」
まだ慌てる時間じゃない。
布団から腕だけ伸ばし、半分眠ったまま背中をポンポンする。
これが、わが家の一次対応だ。
たいていは、これで終わる。
だが今夜は違った。
泣き声はじわじわと音程を上げ、
時計はきっちり午前三時を指している。
おでこに手を当てる。
熱はない。
どこかが痛い様子もない。
ただ、目が覚めただけらしい。
ここからが長い。
元気いっぱいの声で、
「テレビ」「おやつ」と要求が飛んでくる。
夜明け前の交渉は、こちらに分が悪い。
なんとかごまかしながら、自問自答が始まる。
昼寝が長すぎたのか。
布団がずれて寒かったのか。
怖い夢でも見たのか。
答えは出ない。
出ないまま、息子だけが冴えわたっている。
私は心の中で、そっと「ぴえーん」とつぶやく。
ようやく再び寝息が戻ったのは、午前五時。
外はうっすら明るい。
眠い目をこすりながら、コーヒーをすする。
爽やかな朝とは、だいぶ違う。
それでも。
泣き止まない夜もあった。
理由の分からない夜もあった。
今夜は、ただ元気だっただけだ。
そう思うことにして、
コーヒーを飲み干す。
もう一杯、淹れる。

