「おしりふき」という名前は、少し控えめだ。
わが家では万能の便利屋である。
息子の尻はもちろん、口まわり、テーブル、床に飛び散った正体不明の液体まで、黙って引き受ける。
子どもが生まれてから、一日も切らしたことがない。
ムーニーのおしりふきだ。
安売りに心が揺れ、他の銘柄に浮気したこともある。
だが結局戻ってくる。
厚み。水分量。一枚ずつ素直に出てくる安心感。
「利きおしりふき」があれば、目隠しでも当てられる。
それくらい知り尽くした相棒だと思っていた。
――その日までは。
おむつを替えていた妻が、ふと手を止めた。
「これ、見て」
差し出された一枚に、青い文字。
「まいにち おつかれさま」
ただの印刷だ。
そう分かっている。
それなのに、手がほんの少し止まった。
誰かに評価されたわけでもない。
それでも、ちゃんと見られている気がした。
おしりふきに励まされる夜があるとは思わなかった。
おむつを替え終え、息子を寝かせようとする妻に、
私は何気ない顔で言ってみた。
「まいにち、おつかれさま」と。
妻は一瞬きょとんとして、
「どうしたの、急に」と笑った。
青い文字ほど、うまくは届かないらしい。

